薬用小品
medicinal tools and raw materials (2 antique pieces)
watercolor & pencil on Arches paper
142㎜×212㎜
2023

【旧懐随筆10】

 同日に骨董市で入手した小さい缶と小瓶は偶然どちらも薬に関連するものだった。好みの色のものを選ぶためか並べるととても良く合うのだけれども、間にもう1つ何かを入れたい。

 小瓶を買う時、露店の箱の中に小枝が混ざっていたのがステキに思えたので適当な小枝を拾って描こうと気軽に思っていたものの、いざ理想的なものとなるとそう簡単には落ちていない。

 机に2つをセットしたまま小枝が見つからず何日も描けずに過ごす中、動物園へスケッチに行った。1枚描き終え昼食を食べようかとベンチに座っていると上から何かが降って来た。葉と実が付いた楠の小枝だ。調べてみると楠には薬効があり樟脳の材料でもあるらしい。これ幸い…こういう風にモチーフが決まって描いている。

灰皿2つとマッチ
Two ashtrays & match
watercolor & pencil on Arches paper
185㎜×190㎜
2023

【旧懐随筆9】

 灰皿とマッチはそれぞれ別の店で入手したものだが予想の通り、一緒に置いてみるととても良く合った。煙草関連の小物同士としてもピッタリでこの組み合わせで描くのがきっと正解なのだろうと嬉しくなる。

 これまでに手に入れた小さなアンティーク達を眺めているとどういったものが自分の好みなのかを客観的に知ることができる。スクエア型で直線的なデザインが好きなようだ。ではそれ以外の形状の小物達は一体何が良かったのか?改めてこの三角形の灰皿に問うてみた。

 出会ったのは天井に額縁が幾つも貼り付けられた店だった。何十と枠のある棚の数か所に灰皿が2つずつ重ねて置かれていた。その中でこのブルーとオレンジの組み合わせが一番ステキに思えた。おそらく1つずつ置かれていたら興味は薄かっただろう。この2つが一緒にあったことでカラーリングに惹かれたのだった。

 しばらく経ち、ある時ふと思いついて並べてみた結果この灰皿2つとマッチの同系統の色合い・形状と材質の違いがしっくりきたのだった。単品で描きたいものもあれば、何かを加えた方が良い気がして思案中のものもある。描くタイミングがいつ来るのかは分からない。飾り棚に佇む小物達は出番が来るその日を静かに待っている。

ねこちゃん貯金箱
Cat piggy bank
watercolor & pencil on Arches paper
215㎜×215㎜
2023

【旧懐随筆8】

 骨董市では確実性より好奇心が勝ってしまい中身を確認しないまま購入してしまう事がままある。ある日、露店を物色するなかで汚れたビニール袋に入った赤い物体が目についた。上部がモールでしっかり留められておりその場で開封することはできないものの、目がぎょろっとした何かが入っているのは分かった。「銀行のノベルティの貯金箱です」と店主が言う。小ぶりなサイズで何だか惹かれる。何より袋を開けて中身を見てみたいので購入した。

 帰宅後早速開封する。汚れた袋から出てきたのはベロア調の赤いねこちゃん貯金箱だった。あまりの可愛さに取り出した瞬間に奇声を発してしまっていた気がする。こんなに愛くるしいものに出会えた時の喜びは言葉では表現しきれない。可愛らし過ぎて見るたびにグイと胸が締めつけられたのち、ほんわか幸せな気持ちになる。私が骨董品漁りを好きな理由はこんな愛おしい子達との出会いにもあると思う。



折りたたみイス
Antique folding chair
watercolor & pencil on Arches paper
180㎜×180㎜
2022

【旧懐随筆7】

 2022年、大阪市立天王寺美術館地下の美術研究所は1946年(昭和21年)の開所から76年の歴史に一旦幕を下ろした。3年後に再開されるものの同場所で行われることはもうない。

 某日、研究所撤収の為に76年の間に溜まった物品が在籍者に放出される機会があった。大量の絵筆やカチカチになった絵具といった画材を中心に引率用の旗やら手描き看板等様々なものが長机に並べられているのを見て、美術用品に特化した骨董市のように感じワクワクした。

 そんな中、レトロなカラーリングの布地が目にとまった。引っ張り出しその場で組み立ててみると小型の折りたたみイスであった。「かわいい!」と心が躍り、迷わず頂戴することにした。おそらく新たな主は現れず処分を待つのみであったであろうこのイスはすんなり私のものになった。

 「以前の主はこれに座ってスケッチをしたのかな?」と思いながら組み立てたままのイスに腰かけた瞬間“ビチッ”と布地が裂けそうな音がした。…実用は止めておいた方が良さそうだが、地下の美術研究所の思い出と共に今後もステキなモチーフとして活躍してもらえたら嬉しい。

おたふく君
Otafuku boy
watercolor & pencil on Arches paper
170㎜×170㎜
2022

【旧懐随筆6】

 目当てのものがある訳ではなく、突然〝出会ってしまう〟のを期待するのが骨董品漁りだと思っているが今回は少し違った。

 ある骨董店の広告画像に写っていた横たわる小さな人形が一目で気になり、商品の情報がないままにその店を訪れた。引き戸をそろりと開けると異空間に足を踏み込んだように空気が変わる。期待に胸躍らせながら一通り物色するも “あの子” は見当たらない。もうとっくにいないのかも…と落ち込みつつ、お店の女性に画像を見せ尋ねてみると「あ、その子は…」そう言って彼女は奥へ。

 しばらくすると客が入れないスペースのごちゃごちゃした棚から、彼は私の為に無事 “発掘” された。実物は画像で見た以上に魅力的だった。衣装を見るに、君は闘牛士なんだね!予想外の職業(?)が尚更嬉しく、早速包んでもらった。

 彼は随分長い年月スペイン…ではなくアメリカにいたようだが、こういった古い陶器の人形の多くは日本製らしい。その通り、背中を見てみると『MADE IN JAPAN』の刻印があり驚いた。そういえばどこか日本的な趣があるような。特にこのふくよかな頬っぺたには見覚えが…。あ、“おたふく” だ。以来彼は “おたふく君” と呼ばれ、日々愛でられている。

Happy Birthday
watercolor & pencil on Arches paper
212㎜×143㎜
2022

【旧懐随筆5】

 昔から骨董の類が好きで蒐集癖があるものの、日常的に使うか、飾るか、或いは
すっかり忘れられた可哀そうな小物と何かの拍子に対面し申し訳なく思うことも…。そんな骨董品を、絵を描くようになった今はモチーフとしても大変魅力的なものであると感じている。

 骨董品の味の一つである染みや錆は、透明水彩での表現が最適で挑戦し甲斐があると思う。品物を眺めながら脳内でシミュレーションし、描いてみたい気持ちの高まり具合が購入するかどうかの重要なポイントとなっている。

 この缶は爽やかな色味のブルーのラベルと時代を感じるフォント、何より良い具合にラベルに染み込んだ錆に描きたい気持ちを掻き立てられた。持ち帰り調べてみると(何なのか分からないものを入手し調査する時間も楽しい)どうやらタバコの缶であるらしい。描き始めた日が自身の誕生日だったので、タバコの代わりに花を入れ、飾った。

赤い灰皿とマッチ
Red ashtray & match
watercolor & pencil on Arches paper
170㎜×170㎜
2022

【旧懐随筆4】

 喫茶店の白いテーブルに映える赤い灰皿は幼少の頃から強く印象的だった。大好きだったそのお店は2019年に閉店した。40年間営業されたそうだ。
店じまいの際、何か思い出になるものを…とお願いしてティーセット一式と備品を頂戴した。その中には丸型と角型の赤い灰皿が1つずつ含まれている。どちらも“深紅”という表現がぴったりな、ルビーのように美しい色味のガラス製のものだ。

 赤いガラスは加工が難しいと聞いたことがあるがこんなに濃い赤色をどうやって作り出すのか全く想像がつかない。何とか透明水彩でガラスの深い色合いを表現したいと思わせられる、挑戦しがいのあるモチーフである。併せてタバコを描くべきか等迷ったが、手元に良いデザインの相応しいものがあった。うまく“マッチする”もんだな。

この灰皿の赤はご主人手作りのシンプルながら最高に美味しい苺のショートケーキを恋しく思い出させる。寂しさを感じながら描いた。

インク瓶
Old ink bottle
watercolor on Arches paper
180㎜×165㎜
2019

【旧懐随筆3】

 数ある骨董の中でも文房具の類に目がない。よほどの場合を除き“大きさ10cm四方以内のものしか買ってはいけない”というマイルールに接触しないサイズであるのが安心(?)だし、何より、好きな “手で描く・書く” 行為に必要なものであるからだと思う。このインク瓶はユニークな形に一目惚れしたので入手した。僅かに色のついたガラスとフォントのデザインが良いシールも好みだった。

 これは前の持ち主が身近に置いていたものか、はたまた引き出しの中にしまったままだったのか…どのくらいの期間使われていたのかも気になるが誰にも分からない。それが今、私の机の上にある事に不思議さを感じながらシゲシゲと眺めて描いた。初めてまともに描けた一枚としても思い出に残る作品である。


南京錠
Padlock 
watercolor on Arches paper
200㎜×230㎜
2022


【旧懐随筆2】

 骨董屋と並び”金物屋”と呼ばれる大工道具や工具を扱う商店が好きである。ホームセンターに行けば全てのものが揃うのだろうが、あまり魅力を感じない。金物屋に整然と並べられ静かに佇む道具達を見ていると嬉しくなるのは何故だろう?
鉄製/木製の多種多様な工具類と、釘やネジがぎっしり詰まり積み上げられた紙の箱。小さなガラスケースに入ったキーホルダーのプラスチックがキラキラ輝くアクセサリーのようで、透き通るグリップのねじ回しは棒付きキャンディそのもの。父親に連れられ訪れていた幼少の頃からワクワクする空間の一つだ。

 今回描いたのは骨董市の金物を扱う露店にてパケ買いした鍵。帰宅後に箱を開けたら、想像を超えてかわいらしい色合いとデザインの鍵が出てきて小躍りした。早速“小さな骨董”コレクションケースに仲間入りさせて日々眺めている。(よほどでない限り10cm四方サイズを超えるものを入手してはいけないのがマイルール)
1930年代の名刺と箱
1930’s Japanese name card & box
watercolor on Arches paper
150㎜×140㎜
2018
【旧懐随筆1】

 細かいデザインに惹かれ眺めていたら骨董店の店主曰く「満州事変の頃のだろう」。なるほど、確かにそんなモチーフだなと思った。活版印刷のすてきな名刺が1枚残っていたのが購入の決め手となった。MANUFA ”O” TURED …英語の綴り間違いもご愛嬌!な、お気に入りの小さな骨董。
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